偲ぶ心に去来するのは、愛に貫かれた人間の大きさです

セイコーグループ株式会社
代表取締役会長 兼 グループCEO 兼 グループCCO
服部 真二

『一般社団法人 前田憲男音楽記念協会』の設立、誠におめでとうございます。

前田憲男先生とは、語り尽くせぬほど多くの思い出があります。その中で、音楽には無限の力があるのだということを、何度も教えていただきました。

2011年、東日本大震災の直後に岩手県千厩町の酒蔵で行った被災地支援コンサートは、決して忘れることができません。被災地の惨状は想像を絶するもので、私にも何かできることがあるだろうかという気持ちが一瞬で消し飛ばされてしまうくらい、現地の空気の重たさに衝撃を受けました。

その舞台で前田先生は、深く傷ついた悲しみや喪失感に手を差し伸べ寄り添うような優しい音色で、そしてくじけそうな気持ちを励ますような強く逞しいリズムで鼓舞されました。しかも、そのピアノも震災で傷つき、壊れて音の出ない鍵盤があったのです。

この日を皮切りに、思いを共有する仲間が少しずつ集まり、やがて全国に『“わ”で奏でる東日本応援コンサート』の輪が広がっていきました。これは、前田先生が先頭に立って力を尽くしてくださったからです。

40代の頃、初めて作曲した私の録音テープを先生に聴いていただき、楽譜に仕上げてくださったことがありました。すると、思いつくままの何気ないメロディーが、先生のアレンジによって、遊び心にあふれ、翼を与えられて羽ばたいているではありませんか。まるで私の生い立ちを知っているかのように、子供の頃に聴いていた欧米のヒット曲への憧れや情熱が縫い込まれていました。

先生を偲ぶ私の心に去来するのは、音楽家としての研ぎ澄まされた感性と知性はもとより、愛に貫かれた先生の人間の大きさです。

お人柄そのものといえる優しさに溢れたサウンドは、どんな時も我々に寄り添い、心を温めてくださいました。

『一般社団法人 前田憲男音楽記念協会』におかれましては、前田憲男先生が日本の音楽文化の発展に残された偉大な功績を、後世に語り継いでいっていただきたいと願っております。協会のご発展を心より祈念致します。


服部 真二

セイコーグループ株式会社
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